XENONnTでの暗黒物質探索
XENONnT は、イタリア・グランサッソ国立研究所の地下実験施設で運転されている、世界有数の液体キセノン暗黒物質探索実験です。宇宙線の影響を避けるために地下深くに設置され、検出器の周囲は環境放射線を遮蔽するため、超純水で満たされています。液体キセノン検出器では、反応によって生じた真空紫外光と電離電子の両方を読み出すことで、反応が起きた位置やエネルギーを再構成し、ラドンなど放射性物質由来の背景事象を削減しながら暗黒物質の信号を探します。
液体キセノン中で生じた電子を上方へ引き出し、気体部分で再び光に変えて読み出すことにより、低エネルギー事象に対する高い感度、反応位置の三次元再構成、背景事象の識別が可能になります。こうした特徴により、暗黒物質探索に加えて、低エネルギー領域でのニュートリノ観測や、標準理論を超えた希少事象の探索へも研究が広がっています。
本研究室では、XENONnT で現在取得中のデータを用いて、放射性物質由来の背景事象の評価や検出器応答のモデル化を行い、暗黒物質やニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊などの素粒子標準理論を超えた物理の探索や、低エネルギー領域での新たなニュートリノ天文学の開拓を進めています。ラドン、トリチウム、中性子など、検出器中に極微量に存在する不純物は感度を大きく左右するため、解析と検出器開発の両面から研究を進めています。
XLZDに向けた極低放射能検出器R&D
XLZD は、2030年代中頃の開始を目指して検討が進められている次世代の超大型液体キセノン検出器で、現在の実験の約10倍に相当する 60–80 トン級の液体キセノンを用いることが想定されています。
暗黒物質探索の感度をさらに押し上げるだけでなく、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊や低エネルギーニュートリノ観測など、多様な物理の開拓が期待されています。
そのためには、検出器を大型化するだけでなく、現在よりも一段厳しい極低放射能環境を実現する必要があります。本研究室では、大学内で新たな極低放射能検出器開発を進めています。現在の重要なテーマの一つは、合成石英を用いて検出器中心部を密閉し、ラドンやトリチウムの混入を防ぐ「密閉型液体キセノン検出器」です。冷凍機・真空・ガス純化・制御・安全装置を備えた専用評価システムを整え、ガスキセノン中でのラドン排除を実証し、液体キセノン中での評価も進めています。
もう一つの柱は、極低放射能な光検出器の開発です。光電子増倍管やシリコン半導体光検出器について、より低放射能で高性能なものを目指して開発・評価を進めると同時に、これらをハイブリッドに用いた新型光センサーの開発も行っています。浜松ホトニクス社と共同で開発を進めるとともに、波長 175 nm のキセノン発光に対する性能を調べるため、真空紫外光・低温・真空環境で評価できる専用システムを構築しています。
さらに、トリチウム事象の定量評価に向けた極微量水素測定法、PTFE 光反射材中の極微量ウラン・トリウム測定法なども進めています。こうした研究は、暗黒物質探索の感度向上だけでなく、物質・反物質非対称の謎の解明の鍵を担うニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊や、低エネルギー領域での新たなニュートリノ天文学の開拓の基盤技術にもつながります。